うつ病と診断されたけど、「どんな病気か詳しくはわからない」「治療法がわからない」ということはないでしょうか。うつ病の治療を目指すには、まず、病気について理解することが大切です。
本コラムでは、公認心理師の心理カウンセラーがうつ病の症状と治療法についてわかりやすく解説します。
うつ病では、2週間以上にわたって、やる気や気持ちの落ち込み、体重の変化、睡眠の乱れ、焦り、疲れやすさ、集中力の低下、死にたい気持ち、などが続きます。
上記のような症状が続き、苦痛が大きかったり、仕事や日常生活に大きく支障が出ている状態のことをうつ病と言います。
うつ病は日本人の約15人に1人が経験するように、誰もがかかる可能性のある身近な病気です。
発症の原因はハッキリわかってはいませんが、ストレスをきっかけに生じることは多くあります。
ストレスのきっかけとしては、病気、死別、転職、といった大きい変化によるストレスがあります。また、仕事上・学業上での負担、日々の人間関係といった日常的なストレスが重なることもあります。
ストレスの原因から離れてもすぐに症状は改善せず、抑うつ気分があるときには、楽しいことがあってもそれを楽しむことができません。
うつ病の心理的メカニズム
なぜ、うつ病が持続してしまうのでしょうか。
うつ病が維持されるときに、よく起こる悪循環のパターンがあります。
このパターンは、行動、考え、気分に分けると理解しやすいです。
行動、考え、気分は、相互に影響を及ぼしています。
まず、行動についてです。うつ病になると意欲低下から、活動が減る傾向があります。「家にいたほうがいいや」と引きこもりがちになる傾向があります。
次に、気分についてです。活動量が減ると、生活から楽しいことや、充実を感じることも減ってしまいます。その結果、余計に気分が落ち込んできます。
もう一つは、考えについてです。気分が落ち込んでいると、ネガティブな考えが浮かびやすくなります。今後のことについても前向きに捉えることができません。「どうせ何も面白いと感じない」と行動することをあきらめやすくなります。
このように、行動、考え、気分が影響し合ってうつ病の悪循環が生まれてしまいます。
うつ病の治療法
うつ病の治療には、休養の他、薬物療法、認知行動療法などがあります。薬物療法と認知行動療法を組み合わせることで、治療の効果や再発予防の効果が高まると言われています。
認知行動療法とは、考え方の幅を広げたり、行動パターンを少しづつ変えていくことでうつ病を改善するための方法です。
本コラムでは、認知行動療法の一部である、行動へのアプローチと考えへのアプローチを紹介します。
ざっくりとした方針としては、先ほど紹介したうつ病の悪循環を断ち切り、良い循環を作っていくイメージです。
ただし、今回紹介する方法が唯一正しい方法というわけではありません。自分にあった治療法を選んでいくことが大切です。
行動へのアプローチ
悪循環を断ち切るための方法のひとつとしては、楽しいことや達成感の得られることを活動してみることがあります。専門的には行動活性化という治療法です。
うつ病の時は症状によって引きこもりがちになることがあります。しかし、少し元気が出てきた時期に引きこもりを続けていると、多くの場合、悪影響をもたらしてしまいます。
ステップ1 できそうな活動を試す
治療する最初の一歩として、現時点でできそうな活動を試してみることがポイントです。
例えば、お風呂に入る、スーパーに買い物に行くとか、日常で必要なことが挙げられます。
また、散歩に行く、友人と食事に行く、など、自分が幸せを感じることにも取り組みます。
ただ、最初から無理をしてはいけません。
例えば、外に出るのが難しければ服を着替えるだけから初めても大丈夫です。友人と食事に行くのが難しければ、まずはメッセージで連絡をしてみるだけという手もあります。
「そんなのできてあたりまえ」、「簡単すぎて意味がない」と思われるかもしれません。しかし、うつ病を克服するためには、ほんの少しの一歩から活動することが大切なのです。
雪道で雪玉を転がすと大きくなっていくように、小さな一歩がより大きな一歩に繋がります。
外に出て体を動かしても、すぐには心地よくは思えないかもしれません。しかし、少しづつ今よりも晴れた気分になっていきます。
ステップ2 気分の変化を記録する
また、行動の結果気分はどうなったのか記録しておくと、後から活用ができます。
例えば、以前取り組んでいた料理にチャレンジしたとします。
「意外とおいしくできたし、元気がわいた」というように気づきがあり、次の行動につながることもあります。
自分が「楽しい」「達成できた」と思えるような活動を増やすことで、気分が良くなります。
気分が良くなると、「外に出ると楽しいことがある」「自分にもできるかも」という考えが出て、活動が増えることに繋がります。
このように、活動をしてみることでうつ病回復のための良い循環が生まれます。
最初はおっくうだと思いますが、少しづつ達成感や楽しみを感じられる活動を増やしながら、以前の生活のように行動範囲を広げていきましょう。
考えへのアプローチ
悪循環を断ち切るためのもう一つの方法として、バランスよく考えることがあります。専門的には認知再構成法という治療法です。
うつ病の時は、自分、周囲の人、将来に対して悲観的になってしまうことがあります。
悲観的になると、気分や行動にも影響が出てきます。
例えば「こんな自分と会っても楽しくないだろう」と考えたとします。
すると、実際に友人と会う回数が減ってしまうのも自然のことのように思えます。
ステップ1 思考をとらえる
考えへのアプローチでは、はじめに、自分の思考をとらえることを目指します。
具体的には、どのような状況で、どのような気分で、どのような考えが浮かんだのか、ということです。
うつ病の方は、特有な方法で出来事を解釈していることがあります。
このうつ病的な考え方のパターンは現実的に基づかなかったり、一方的だったりします。
例えば、知り合いに挨拶をしたが挨拶が返ってこなかった状況について検討します。
浮かんだ考えとしては「自分は絶対嫌われている」、感情としては「落ち込み」があったとします。
すると次に知り合いに会ったときは、その人を避けてしまうかもしれません。
この例では、他の可能性を考えず一度挨拶が返ってこなかっただけで自分は嫌われていると断定をしてしまっています。うつ病では、一つのネガティブなことを全てに当てはめてしまうという視野の狭まりがよくあります。
自分の考えを整理して書き出すことを続ることで、自分の思考をとらえて傾向をつかむことに繋がります。
ステップ2 考えの幅を広げる
次に、最初に浮かんだ考えとは別の考えについて考えます。
このステップでは、バランスの取れた考え方を増やしていくことを目指します。
先ほどの、知り合いに挨拶をしたが挨拶が返ってこなかった状況でいうと、
「自分の声が聞こえなかったのかもしれない」
「考え事をしていて気付かなかったのかも」
という考えがあるでしょうか。
別の考えを付け足すことで、「絶対嫌われている」という断定がなくなり、落ち込みが少し和らぐことがあります。また、次会ったときにもう一度声をかけるなど、次の行動につながるかもしれません。
よく思われがちなことで「考えを変えなきゃいけない」「ポジティブに考えるべき」というのがあります。ただ、どんな人も考え方をいきなりガラッと変えるのは相当難しいのではないでしょうか。
むしろ、「考えを変えなきゃいけないのに、またネガティブに考えてしまった」と落ち込みにつながってしまう可能性もあります。
自分にとってイヤな考えが浮かんでしまうのは仕方のないこともあります。ポイントとしては、自分とは別の視点の考え方を付け足していくことです。
もし思いつかない場合、「長期的に考えてみてどうか」「別の人だったらどう考えるか」など、考えを広げるための質問が役に立ちます。
考えが柔軟になることで、気分が改善したり、積極的な行動につながりやすくなります。
バランスの取れた考えを増やすことで、うつ病回復のための良い循環が生まれます。
さいごに
いかがだったでしょうか。うつ病の理解と治療に少しでもつながれば嬉しく思います。
うつ病の治療については、セルフヘルプの本などで自分で取り組むこともできます。
もし自分で取り組むのは難しかったり自信がない場合、公認心理師や臨床心理士など心理カウンセラーと共に取り組むことをおすすめします。
あいち就労支援センターでは、公認心理師をはじめとした心理カウンセラーと共に、うつ病を含めた様々な精神疾患の治療および予防を行うことができます。
興味のある方は無料の初回カウンセリングにお越しください。
【参考文献】
うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料).厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」