自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人の中には、対人関係はとても複雑で難しいと感じられる方もいらっしゃいます。特に、言葉で説明されない「暗黙のルール」や「社会的な期待」を理解するのは難しいことがよくあるかもしれません。
例えば、相手との距離感や、目を合わせるタイミング、話を切り出すタイミングなど、それら動作や態度が一体何を意味しているのかが掴みづらいことがあります。
こうした場面での経験が積み重なると、「自分はコミュニケーションスキルが不足しているのでは・・・」と感じ、自分への自信を失ったりしてしまうこともあるかもしれません。しかし、無理をせずに少しずつ自分なりの対処法を見つけることで、安心して対人関係を築くための方法を身に着けることができます。
この記事では、社会的なルールや暗黙の了解について、実際の場面でどのように対応していけるかについて紹介します。
なぜ暗黙のルールがわかりにくいのか?
他者の意図や気持ちを読み取るのは難しいものです。暗黙のルールは、言葉で説明されることがほとんどないため、経験を通して自然に理解するのが一般的とされています。
しかし、ひとによっては、こうした「無意識の理解」がわかりにくい場合があります。暗黙のルールが理解できないと感じることは自然なことであり、自分を責める必要はありません。
例えば、以下のような場面で戸惑うことがあるかもしれません。
相手との距離感がわからない
話している相手に近づきすぎたり、逆に遠くに離れすぎたりすることに対して、相手がどのように感じているのかがわかりにくい。
目を合わせるタイミングが難しい
どれくらいの頻度で相手と目を合わせればよいのか、どのタイミングで視線を外せばよいのかが掴みにくい。
話題の切り替え方がわからない
自分が話したいことと、相手が興味を持っていることが一致しているのか不安になり、会話が続けにくくなる。
これらの暗黙のルールがわからないことで、誤解が生じたり、自分に自信が持てなくなってしまうこともあります。しかし、こうしたルールは学ぶことができ、少しずつ理解を深めていくことで、安心して人と接することができるようになります。
暗黙のルールに対処するための工夫
1. 距離感や視線について「自分なりの基準」を作る
相手との適切な距離感や視線のタイミングを自然に身につけることが難しい場合、自分なりの基準を作ることが役立つかもしれません。たとえば、話をする際には、片腕を軽く伸ばして相手に触れない程度の距離を保つようにする、という具体的な距離を決めておくと、安心して話せるかもしれません。
また、目を合わせるのが難しい場合は、相手の鼻の辺りを見るようにすると、自然な印象を与えられることがあります。視線を合わせる時間を短くしたり、相手が話している間は自分も頷いたりすることで、リラックスして会話に臨めるかもしれません。
2. 会話の流れをスムーズにする「キーワード」を持つ
会話の中で、話題を切り替えたり、自分が話したいことを持ち出すタイミングが難しいと感じるときは、少しだけ練習をしてみるのも良い方法です。例えば、「なるほど」「そうですね」といった一言を入れることで、相手が話を続けやすくなります。
また、自分が話を振りたいときには、「そういえば」「ところで」といったキーワードを使うと、話題の切り替えが自然にできるようになります。
3. ロールプレイや目に見えるヒントを活用する
社会的なルールを練習するには、ロールプレイや目に見えるヒントが役立つことがあります。例えば、友人や支援者と一緒に場面を想定して会話を練習すると、実際の場面での対応が少しずつスムーズになるかもしれません。
そのひとの特性に合わせ、絵やフローチャートを使って会話の流れを目に見えるようにすると、理解がしやすくなります。
自分に合った方法を見つけよう
暗黙のルールを完璧に把握するのは難しいかもしれませんが、少しずつ工夫を取り入れることで、自分なりの安心感を持って対人関係に臨めるようになります。大切なのは、無理に自分を変えようとするのではなく、「自分に合ったやり方」を見つけることです。
もしも自分の対応に不安がある場合、信頼できる人にサポートをお願いするのも一つの方法です。自分なりの対処法を探しながら、ゆっくりと、上手に人と接する方法を見つけていきましょう。
まとめ
暗黙のルールや社会的な期待を理解するのは簡単ではありませんが、対処の工夫を少しずつ取り入れることで、自信を持って対人関係を築けるようになるかもしれません。自分に合った方法を見つけて、安心してコミュニケーションを楽しめるようにしていきましょう。
あいち就労支援センターでは、公認心理師と連携して、その人に合わせたコミュニケーションを上手にとる方法を考え、実際にコミュニケーションの練習をする機会を提供しています。お困りのことがあれば、ご相談してみてくださいね。