ASD(自閉スペクトラム症)をもつ人は、日常生活でさまざまな困難に直面することがあります。たとえば、予期せぬ予定の変更、対人関係の微妙な空気の読み取り、感覚過敏、環境の変化などによって、強いストレスを感じることがあります。
ASDとウェルビーイング(心の健康や満足感)はどのように関係しているのでしょうか。実際、ASDの人では、うつや不安を抱えるリスクが高くなりやすいという研究結果があります。ウェルビーイングの観点からみると、ASDの人にとっては「自分らしさを保ちながら、社会の中で安心して過ごせるかどうか」が非常に重要な鍵になります。
そのためには、まず環境の調整が重要です。予定が急に変わると強いストレスになることがあるため、日課やスケジュールはなるべく予測可能な形で提示されることが望ましいです。仕事や学校でも、「急な変更がある場合は事前に伝える」「静かな空間で作業できるようにする」など、外部環境の配慮があれば、不安や混乱は大きく軽減されることがあります。
また、コミュニケーションの工夫もポイントになります。あいまいな表現や間接的な言い回しは、ASDの人にとって理解が難しいことがあります。なるべく具体的でわかりやすい伝え方をすることで、誤解やストレスを防ぐことができるかもしれません。本人が困っているときに「困っている」と言える雰囲気があるかどうかも、大きな違いを生みます。
加えて、感覚的な負担への対応も見過ごせません。音や光、においなど、他の人が気にならない刺激に強く反応してしまうことがあります。そうした状況に対して、ノイズキャンセリングのイヤホンを使ったり、照明を落としたり、においが少ない場所を選んだりといった対処ができると、身体的な負荷が減り、心の安定にもつながるでしょう。
そしてもうひとつ大切なのが、自己理解と周囲の理解です。ASDの特性は多様であり、一人ひとりの困りごとや得意なことが異なります。そのため、「自分はこういうときに困りやすい」「こういう環境だと力が発揮しやすい」といったことを本人が理解しておくこと、またそれを周囲に適切に伝えることが、安心して生活するうえでの土台となります。心理教育やカウンセリングなどを通じて、特性への理解を深めていくことも役に立つこともあります。
ウェルビーイングを高めるというのは、「無理をして周囲に合わせること」ではありません。むしろ、自分にとってちょうどいい距離感や環境を見つけ、そこにいられる時間を少しでも増やしていくことが大切です。ASDの人が自分らしく安心して過ごせるような工夫や支援が、結果としてウェルビーイングの向上につながります。
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