発達特性がある方では、しばしば不安傾向を併せ持つことがあります。この「不安を感じやすい」という特性は、職場におけるパフォーマンスや人間関係にも影響を及ぼすことがあります。
たとえば、報告や相談が遅れたり、確認行動が過剰になったりするのは、能力ややる気の問題ではなく、「不安との付き合い方」が関係している可能性があります。
報告や相談が遅れてしまう理由
不安傾向が強い人は、「この内容で本当に合っているのか」「上司にどう思われるのか」といった想像を繰り返しがちです。
そのため、何かミスがあった場合や不確かな状況に直面したとき、すぐに報告するよりも「もう少し様子を見よう」「自分でなんとかしてからにしよう」と判断しやすくなります。
こうした遅れは、職場の流れの中では「なぜすぐに言ってくれなかったのか」という誤解につながることもありますが、本人の中では「言いたいけれど不安が強くて動けなかった」という葛藤があることも少なくありません。
特に、これまでの経験で注意や叱責を受けたことがある場合は、報告や相談に対するハードルがさらに高まります。
確認行動の多さとその背景
また、不安が強い人は、念のための確認を繰り返す傾向もあります。「念押しで質問をする」「同じ内容を何度も見返す」といった行動は、安心感を得るための工夫であり、周囲からは非効率に見えてしまうこともあるかもしれません。
しかし、不安傾向のある人にとっては、「確かめずにはいられない」「曖昧なままでは手を動かせない」といった感覚が強くなるため、この確認行動をただ制限することは逆にパフォーマンスを下げてしまうことがあります。
対応としては、確認すべきポイントを事前に整理しておくことや、「ここまでは確認し、それ以降は自分で進めてよい」といった境界線を一緒に設定する方法が有効です。
不安に対応するための工夫と支援
不安傾向は単なる「性格」ではなく、認知のクセや経験と結びついた反応パターンであることが多く、職場での支援や工夫によって、負担を軽減することが可能です。
まずは心理教育の視点から、不安傾向がどういう仕組みで起こるのかを本人や職場の人が理解しておくことが重要です。
「不安が強い=自信がない」といった単純な見方ではなく、「安心できる条件が整っていないと動きにくい」など具体的に理解することで、関わり方に変化が生まれます。
次に、環境調整の観点からは、作業の見通しが立ちやすいように情報を整理して伝える、業務内容を図や表で明確に示すなど、視覚的に不安を減らす支援が効果的です。
また、相談の窓口やタイミングを決めておくことで、「いつ、誰に、何を伝えればよいか」が明確になり、不安による先延ばしを防ぎやすくなります。
さらに、認知行動理論のアプローチを用いて、「不安なときに考えがどう偏りやすいか」「その結果どのような行動につながるか」を一緒に整理し、少しずつ自分なりの対処法を増やしていくことも一つの手段です。
たとえば、「この程度の不確実さであれば先に進めてみる」「迷ったら○○分以内に確認する」といった具体的なルールを自分で作ることで、負荷を下げながら対応力を高めることができます。
不安傾向があると、職場での動きに慎重さや時間がかかる場面が出てくるかもしれません。けれども、それは「性格的な弱さ」や「努力不足」ではなく、特性として理解できるものです。
周囲の理解とちょっとした環境の工夫、そして本人の小さな試行錯誤の積み重ねによって、必要なサポートとパフォーマンスの向上は両立できる可能性があります。不安をゼロにしようとするのではなく、不安があっても動ける形を一緒に探していくことが大切です。