注意欠如・多動症(ADHD)の傾向がある人にとって、長期休みは思わぬ落とし穴になりやすい時期です。普段は外部からの予定や時間の制約によって行動のリズムが保たれている場合でも、休みに入るとその構造が失われ、自分で時間を管理する負荷が一気に増加します。
その結果、気づかないうちに生活全体が混乱し、気分や体調が不安定になることがあります。
まず最も大きな影響として、生活リズムの乱れが挙げられます。ADHDでは、もともと時間感覚の調整や先延ばしのコントロールに困難を抱えやすいことが知られています。朝起きる時間や夜寝る時間が日によって大きくズレると、概日リズムが崩れ、注意力や判断力が低下しやすくなります。
さらに、長期休みの終盤になるにつれ、「休みの間に何もできなかった」という感覚から自己評価が下がり、落ち込みや不安を感じることもあります。
また、行動の開始に時間がかかる「先延ばし」や、「やる気が出ないまま何も手をつけられない」という状態にも注意が必要です。
休みの間は外からの締め切りやリマインダーが減るため、自分でタスクを始めるハードルが高くなります。
やるべきことがあるのに気持ちばかりが焦り、実際の行動につながらない状態が続くと、ストレスが蓄積されていきます。
このようなときは、タスクを細かく分けて「最初の一歩」を具体的に設定することが有効です。
さらに、長期休み中は「気が散るもの」が身の回りに増えることもあります。
スマートフォン、動画、ゲームなど、興味のあるものに過度に集中してしまい、気づいたときには数時間が経過していたということも珍しくありません。
過集中と衝動的な行動のバランスを取ることが難しい場合、事前に使用時間の目安を決めておいたり、予定を立てて可視化しておく工夫が求められます。
また、予定が空白になりやすいことで、社会的な関わりが減る点にも留意が必要です。人との関係の中で気分が整っている人ほど、孤立感や不安が出やすくなります。
意図的に人と会う予定を入れたり、外出のきっかけを作っておくと、生活のリズムを保ちやすくなります。
休み明けには、学校や職場への復帰に対するストレスが重なりやすくなります。
生活の切り替えがうまくいかないと感じる場合は、少しずつ起床時間を戻していく、前日から準備を進めておくなど、段階的に適応する方法が有効な場合が多いです。
特に気分の落ち込みや頭の切り替えがうまくいかない場合は、医療機関や支援機関への相談も選択肢のひとつです。
長期休みは自由と同時に症状が不安定になる場合も伴う期間です。自分の特性を否定せず、生活の構造を意識して整えていくことで、落ち着いた時間を過ごすことが可能になります。
休み期間でも、無理なく、過ごしやすいペースを見つけていきましょう。