新年度は、仕事や学校などの環境が大きく変わる時期です。新しい担当業務、スケジュールの変更、新しい人間関係など、「切り替え」が求められる場面が一気に増えます。
このような変化の多い時期は、注意欠如・多動症(ADHD)の特性がある方にとって、とくに負担が大きくなりやすい時期でもあります。ADHDの特性からくる注意の散漫さや、行動の衝動性、スケジュール管理の苦手さが、新年度の変化に拍車をかけてしまうこともあります。
今回は、ADHDの特性がある方が新年度に感じやすい困りごとと、それに対処するための具体的な工夫についてご紹介します。
ADHDの特性がある方が新年度に困りやすいこと
変化の多さに気持ちが追いつかない
新しい環境、新しい人間関係、新しいルール。短期間で多くのことを一気に覚えたり、対応したりする必要があると、混乱しやすくなる場合があります。
具体例:
- スケジュールが急に変わると頭の中が真っ白になる
- 複数の新しいことを同時に処理しようとして疲れやすい
- 新しい人との関係づくりでエネルギーを消耗する
スケジュールやタスク管理がうまくいかない
ADHDの特性がある方にとって、「見通しを立てて行動すること」や「計画通りに進めること」は苦手なことの一つです。新年度はスケジュールが流動的になりやすく、予定変更も多いため、ますます混乱しやすくなるかもしれません。
具体例:
- 新しい時間割を把握するのに時間がかかる
- タスクが次々に来て、何から手をつけていいかわからなくなる
- 必要な準備を忘れてしまいがち
切り替えが苦手で、前年度のペースを引きずる
ADHDの特性がある方は、「切り替え」がうまくいかない場合があります。環境が変わっても、気持ちや行動が前のままで、うまく新しい流れに乗れず、ミスや遅れが生じることがあるでしょう。
具体例:
- 去年のやり方に固執してしまう
- すぐに新しいルールや手順に適応できず、何度も確認が必要になる
- 気づいたら周囲とのスピードにズレが出ている
周囲からの「期待」にプレッシャーを感じる
新年度は「新しい自分で頑張らなきゃ」「今年こそはしっかりしよう」と意気込む一方で、理想と現実のギャップに落ち込みやすい時期でもあります。ADHD特有の衝動性やミスが出ると、「またか」と自信をなくしてしまうこともあるでしょう。
具体例:
- 小さなミスを気にしすぎてしまう
- 自分のペースで動けず、自己否定的な思考に陥りやすい
- 周囲に迷惑をかけているのではと過剰に気にしてしまう
新年度の困りごとに対処するための工夫
変化を「見える化」して整理する
頭の中で変化を処理するのが難しい場合は、紙やデジタルツールを使って、情報を「見える形」にしてみましょう。
実践例:
- スケジュールをカレンダーや手帳に書き出す
- 朝のルーティンや出勤準備をチェックリスト化する
- 「やることリスト」を項目ごとに分けて優先順位をつける
「いつも通りのこと」を一部に残す
全部が変わると不安やストレスが増すため、「いつもの習慣」や「変わらないもの」を意識的に生活に残すことで安心感を保つことができるかもしれません。
例:
- 朝起きてからの行動を変えずにキープする
- 決まった飲み物や音楽で一日を始める
- 昼休みの過ごし方を一定にする
タイマーやアラームで時間を「可視化」する
ADHD傾向のある人は、時間の感覚をつかむのが難しいことがあります。タスクにかける時間が長くなりすぎたり、時間切れになることを防ぐために、タイマーやアラームを活用することもできます。
実践例:
- スマホアプリのリマインダー機能で予定を管理
- 「10分でここまで」と小さな目標を区切る
人とのコミュニケーションは「型」を用意しておく
新しい人間関係に不安を感じる場合は、あらかじめ会話の「定型パターン」をいくつか考えておくと安心です。
例:
- 「この仕事、初めてなので少しずつ覚えたいと思ってます」
- 「もし間違ってたら教えていただけると助かります」
「できていること」に目を向ける
新年度は「うまくやらなきゃ」と意識しすぎてしまう時期でもあります。できていないことばかりに目が向くと、自己肯定感が下がりやすくなるため、小さな「できた」を意識的に振り返る時間をとりましょう。
工夫例:
- 1日の終わりに「今日できたこと」を3つ書き出す
- 「これは去年より上手くいった」と比較してみる
- 他人と比べるのではなく、昨日の自分と比べる
まとめ
ADHDの特性がある方にとって、新年度は変化が多く、特に負担を感じやすい時期です。スケジュールの把握、タスクの管理、人間関係の構築など、いくつもの課題が同時に押し寄せてくることで、混乱や不安が高まりやすくなります。
しかし、情報を「見える化」したり、タイマーやチェックリストを活用したり、「自分にとって安心できる習慣」を維持するなど、具体的な工夫を取り入れることで、その負担を軽減することができるかもしれません。
まずは自分の特性に合った方法を探し、少しずつ自分のペースで新年度の変化に慣れていけるといいですね。焦らず、一歩ずつ取り組んでいきましょう。