認知行動療法(CBT)とは
ストレス社会と言われる昨今、ストレスなく過ごすことが難しくなっています。
自分なりにうまくストレス対処ができていればよいのですが、
対処しきれないと、身体を壊してしまったり、うつ病を発症して
仕事に行けなくなってしまうこともあるかもしれません。
ストレスの問題を自分で改善できるようになることを目指すのが認知行動療法です。
Cognitive Behavior Therapyの頭文字をとって、CBTと呼ばれることもあります。
認知行動療法に取り組むと、
「どのようなストレスによって、どのような問題が生じているのか」
「その問題を解決するために、何をすればいいのか」を
自分で考えて、対処することができるようになります。
認知行動療法は、さまざまな疾患の治療に効果があることが科学的に証明されています。
このコラムでは、自分でできる認知行動療法について、公認心理師がご紹介します。
基本モデル ~ストレス状況とストレス反応~
認知行動療法では、上図の「基本モデル」を理解し、活用する必要があります。
以下に示すAさんの事例を、基本モデルで整理していきます。
ある日、Aさんが家でスマホを見ていると、
A社から採用面接の結果の通知が届きました。
そこには「今回は採用を見送らせていただきます」と書かれていました。
それを見たAさんはショックを受け、涙目になり、
「これで3社落ちた、私のような人を採用する企業なんてないんだ」と、
絶望的な気持ちになりました。
また、面接で質問内容に答えられなかったことを思い出して、
「ちゃんと面接対策をすればよかった」とぐるぐる考えてしまいます。
そして、Aさんは「今後面接がある企業も落ちたらどうしよう・・・」と、
不安や焦りを感じています。
Aさんは次第に自信を失い、ゲームをして現実逃避してしまいました。
まずは、ストレスをストレス状況 ( 環境要因 ) とストレス反応 ( 個人要因 )に分けます。
ストレス状況とは、自分にストレスを与えてくるさまざまな環境要因のことです。
ストレス状況によって引き起こされた、さまざまな反応のことをストレス反応といいます。
Aさんのストレス状況とストレス反応を図で表すと以下の図のようになります。
基本モデル ~4つの領域~
さらに認知行動療法では、ストレス反応を
「認知」「気分・感情」「身体反応」「行動」の4つの領域に分けて理解します。
①認知
認知とは、頭の中に浮かぶ考えやイメージのことです。
同じストレス状況でも、認知は人によって異なります。
Aさんの場合は、ストレス状況に対して
「これで3社落ちた、私のような人を採用する企業なんてないんだ」
「ちゃんと面接対策をすればよかった」
「今後面接がある企業も落ちたらどうしよう・・・」
という認知が頭に浮かんでいます。
②気分・感情
気分・感情とは、短い言葉で表される、その時々の心の状態のことです。
例えば、嬉しい、楽しい、緊張、怒り、悲しいなどです。
Aさんはストレス状況により、落ち込み、絶望感、後悔、
不安、焦り、自信喪失などの気分・感情が出現しています。
③身体反応
身体反応は、身体に現れる生理的な反応のことです。
例えば、頭痛、腹痛、吐き気、不眠、疲労感、呼吸が苦しい、
心臓がドキドキする、頭に血が上るなどです。
Aさんはストレス状況により、涙目になるなどの身体反応が出現しています。
④行動
行動は、第三者から見てもわかる、その人の振る舞いのことです。
確認する、電話をかける、歩く、食べる、カギを閉める、就職活動をするなど、
行動は無限に挙げることができます。
Aさんはストレス状況に対し、現実逃避で「ゲームをする」という行動をとっています。
これら4つの領域は、互いに影響しあっています。
Aさんの基本モデルを図で表すと以下の図のようになります。
基本モデルの活用
認知行動療法では、「認知」と「行動」に焦点を当てます。
ストレス状況、気分・感情、身体反応は直接コントロールしにくい部分だからです。
Aさんの例で言うと、「不採用通知」をなかったことにすることは難しいですよね。
Aさんが、落ち込みなどの気持ちを感じないようにすることも同様です。
また、涙目になるなどの身体反応を消そうとしても、身体が勝手に反応してしまいます。
それでは、認知面と行動面に焦点を当てて、Aさんのストレス状況を
緩和する方法を探っていきましょう。
認知面
Aさんのストレスを軽減してくれそうな認知をいくつか探してみました。
①「あんな答えにくい質問をしてきたA社が悪い!」
②「まだ3社しか受けていないし、会社との相性だってある。
『私のような人を採用する企業なんてない』は考えすぎかもしれない」
③「くよくよ考えても仕方がない。反省を活かして、次の面接で頑張ろう」
初めに浮かんだ認知と異なる認知は無限に出すことができますが、
今回はこの3つの認知について考えていきたいと思います。
行動面
①~③の認知を採用すると、Aさんはどのような行動をとりそうか考えてみましょう。
①の認知を採用し、行動した場合
「あんな答えにくい質問をしてきたA社が悪い!」という認知と
釣り合う行動は、「A社のグチを吐く」「ストレス解消のためにゲームに没頭する」
などが考えられます。
落ち込みは和らぎそうですが、新たに怒りの感情が出現しています。
また、A社のせいにしているため、次の面接に向けて対策をするという行動に
つながりにくいのではないかと考えられます。
②の認知を採用し、行動した場合
では、「まだ3社しか受けていないし、会社との相性だってある。
『私のような人を採用する企業なんてない』は考えすぎかもしれない」
という認知と釣り合う行動は何でしょうか。
「これまで受けた3社に受からなかった理由を分析する」、
「採用されやすそうな会社を探して応募する」など、
就職活動に向けた前向きな行動が見られそうですね。
その結果、落ち込みや後悔、不安などの気持ちは和らぐと考えられます。
③の認知を採用し、行動した場合
「くよくよ考えても仕方がない。反省を活かして、次の面接で頑張ろう」
という認知と釣り合う行動は、「次の面接で答える内容を紙に書き出す」
「面接の練習をする」などが考えられます。
ネガティブなことを考え続けるよりも、有意義な時間の使い方ができそうですね。
試してみましょう①
最近心が揺れ動いたことを、基本モデルで整理してみましょう。
例えば、「友人から自慢をされてモヤモヤしたこと」や、
「同僚から頻繁に相談をされて困った場面」など、何でも構いません。
書き出すと、ストレスを客観的に理解し、整理することができるようになります。
中には「書き出すことでモヤモヤが解消された」という方もいるかもしれません。
試してみましょう② ~認知編~
「試してみましょう①」の基本モデルの「認知」に、
ストレスを軽減してくれそうな認知を付け加えてみましょう。
「極端な考えに陥っていないか」「他の人なら同じ状況をどのようにとらえるか」
といった視点で考えてみてください。
他の考えを付け加えたことで、気分・感情に変化はありましたか?
ネガティブな気分・感情が「0」にはならなくても、
「イライラ80が、イライラ30まで下がった」という方もいるかもしれません。
試してみましょう③ ~行動編~
「試してみましょう②」の認知を採用すると、行動はどのように変化しそうでしょうか。
その行動をとると、どのような結果につながりそうでしょうか。
かえって状況が悪化したり、自分にとって不利益なことが起こらないかも含めて
考えてみましょう。
いい結果につながりそうな行動が見つかれば、ぜひ実践してみてください。
認知行動療法の注意点
認知行動療法だけで、すべての問題を解決できるわけではありません。
また、単に「認知と行動を変えればよい」というわけでもありません。
ストレス状況 ( 環境要因 )があまりにも大きすぎる場合は、できるだけ環境要因に
アプローチする必要があります。
例えば、「上司からひどいパワハラを受けている」「パートナーからDVを受けている」
といった状況では、職場環境の改善や、今の環境から逃れることも大事です。
また、障害者枠で働く場合、疾患や特性によりどうしてもできないことがあれば、
職場に合理的配慮をお願いすることもあります。
認知面、行動面の対処だけに固執しないようにしましょう。
最後に
「認知行動療法を自分でやってみたけど難しかった…」
「やり方がこれで合っているのかわからない…」という方もいるかもしれません。
あいち就労支援センターでは、カウンセリングや集団プログラムなどを実施しており、
認知行動療法を自分一人でできるよう、公認心理師がお手伝いをさせていただきます。
ご興味のある方は、無料の初回カウンセリングにてお待ちしております。
参考文献
伊藤絵美. ケアする人も楽になる認知行動療法入門BOOK1. 医学書院, 2018