コラム

COLUMN

実行機能と就労の安定

実行機能と就労の安定

―注意・記憶・切り替えの特性から考える働き方の工夫

職場で仕事を安定して続けるためには、知識や技術だけでなく、注意の持続、複数の情報の整理、状況に応じた対応など、さまざまな認知的なはたらきが関係しています。こうした働きに関わるのが「実行機能(Executive Function)」と呼ばれる心の働きです。これは一つの能力ではなく、複数の認知的スキルの組み合わせとされており、その状態によって仕事の進め方や対人関係にも影響が現れることがあります。

実行機能とはどのようなものか

実行機能には、注意の持続・切り替え、ワーキングメモリ(作業記憶)、自己の行動の制御、計画や段取りの立案などが含まれます。これらは、仕事の場面でいうと「指示を最後まで聞いて理解する」「タスクを整理して順に進める」「想定外の変更に合わせて動きを変える」「必要なことを思い出して対応する」といった一連の過程に関わります。

このような実行機能に弱さがある場合、本人の能力や意欲にかかわらず、仕事の流れに支障が出ることがあります。たとえば、指示を聞いたときに内容をすべて覚えきれなかったり、途中で他の情報が入って混乱してしまったり、やりかけの作業に戻るタイミングを逃してしまうことがあります。

実行機能の特性と職場での困りごと

実行機能の特性が強く影響する場面としては、スケジュールの管理や報告・連絡・相談(いわゆる報連相)が挙げられます。予定が複数ある場合、それを整理して優先順位をつけたり、時間配分を調整したりすることが難しくなることがあります。また、作業中に上司から話しかけられるなど、想定外の出来事があると、元のタスクに戻るまでに時間がかかることもあります。

報連相に関しても、今話しかけてよいタイミングがわからなかったり、頭の中で情報がまとまっておらず伝えづらいと感じたりすることがあります。これらは本人の努力不足ではなく、実行機能の負荷のかかり方に起因することがあるため、周囲の理解と調整が必要になります。

実行機能を支える支援の工夫

実行機能に関わる困りごとには、本人の工夫だけでなく、支援ツールや職場での調整によって負担を軽減できる場合があります。

たとえば、ワーキングメモリの負担を減らすためには、口頭での指示だけでなく、メモやチェックリスト、タスク管理アプリなどを使って視覚的に情報を保持する方法が効果的です。これにより、覚えておくことが少なくなり、注意が散りにくくなります。

また、スケジュール管理では、1日の予定を紙やデジタルのカレンダーに書き出し、都度確認する習慣をつけることで、「今やるべきこと」に集中しやすくなります。細かいタスクに分ける、終了時間をあらかじめ決めておくといった工夫も有効です。

報告・相談に関しては、「どのタイミングで」「何を」「どのように」伝えればよいかをあらかじめ共有しておくと、動きやすくなります。「午前中に進捗を共有する」「困ったらメモをつけて伝える」など、具体的なルールを作っておくことが負担の軽減につながります。

また、支援する側としては、指示を出すときに一度に多くの情報を伝えすぎない、見通しを伝えてから細かい説明を加えるなど、情報の整理を手伝うような工夫が役立ちます。

まとめ

実行機能の特性は、仕事における行動の質やペース、報告のしやすさなどに密接に関わっています。注意の持続が難しい、作業の段取りがつけづらいといった困難は、必ずしも本人の意欲や能力の不足ではなく、情報処理の負荷が原因である場合があります。

視覚的な整理、タスクの分割、情報の共有ルールなど、周囲との協力や支援の工夫によって、実行機能に関わる困難を軽減し、安定した働き方につなげることが可能になります。大切なのは、困りごとを本人だけの課題にせず、「どのように支えれば仕事を進めやすくなるか」という視点で考えることかもしれません。

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