このコラムでは,適応障害の特徴と治療について解説していきます。
適応障害とは
適応障害とは,自身の置かれている環境に適応できず,ストレス反応として心身の症状が出現し,
社会生活に支障が生じる状態です。
症状は,落ち込み,不安,身体症状,不眠など様々で,ご本人は強い苦痛を感じます。
こうした症状のために,会社に行けなくなる,学校に行けなくなるなど,
それまでしていた行動ができなくなってしまうこともあります。
適応障害の特徴
適応障害の特徴は,ストレス要因が比較的はっきりしていることです。
よくあるストレス要因は,
「就学」「就職」「転職」「部署移動」「転居」「結婚」「対人関係の悩み」
など環境変化に伴うものです。
こうした環境に対処しきれず,心身の反応を起こしてしまうのです。
社会生活に支障をきたすようなお困りごとがある場合,まずは医療機関の受診をおすすめします。
診断基準
精神疾患の診断基準を示すDSM-5(APA, 2013)では,以下のような診断基準が示されています。
- A.はっきりと確認できるストレス因に反応して,そのストレス因の始まりから3ヵ月以内に情動面または行動面の症状が出現。
- B.これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので,それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
- 症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても,そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛。
- 社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の重大な障害。
- C.そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし,すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもない。
- D.その症状は正常の死別反応を示すものではない。
- E.のストレス因、またはその結果がひとたび終結すると,症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない。
参考文献
APA (2013). DSM-5. Amer Psychiatric Pub Inc.(高橋三郎他(監訳)(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院)
適応障害の治療
適応障害では,要因となった環境から離れて休養をとると,症状は軽減していきます。
例えば,職場環境が要因だった場合,いったんお休みをとると心身の回復が期待できます。
このため,まずはしっかりと休養することが大切です。また,ストレス要因となっている環境の調整を行うことが治療につながります。
一方で,ストレス要因となった環境を変えるのが現実的に難しい場合もあります。
例えば,職場環境が要因だった場合や,職場の仕組みや働き方そのもの,部署移動ができない場合などがこれにあたります。
また,もしも部署変更や再就職をして環境を変えることができたとしても,
次の環境で同じタイプのストレス要因に出会う可能性もあります。
例えば,「忙しそうな/怖そうな上司」「繁忙期」「仕事のミスを指摘された」などがストレス要因だったとします。これらの要因は珍しいことではないため,また出会う可能性は十分にあります。
このため,再発予防なしに社会復帰してしまうと,もとの環境に戻ったときに再度症状が出てしまうことがあるのです。
したがって,社会復帰後も安定した社会生活を送るには,ストレスとの付き合い方といったご本人なりの対策が必要になってきます。
発生しうるストレス要因とどう付き合っていくか,ストレスをどのように解消していくか
が再発予防のポイントになります。
対策
では,具体的にはどのような対策が効果的なのでしょうか。
カウンセリングでは,要因や背景に合わせて,その方に合った対処方法をともに検討し,試していきます。
中でも一般的なのは「生活リズムの安定」です。睡眠,食事,適度な活動と休養を安定して実施できるようにしていきます。
とくに,ストレスがかかると眠れなくなる、夜更かししがちになる、活動量が低下するなどの人は普段からリズムを保つようにします。
また,ストレス解消方法の種類を増やすことも大切です。
体に負担のかかるようなストレス解消をしすぎていないかも確認します。ドカ食い,お酒の飲みすぎ,ゲームのしすぎなどがこれにあたります。
考え方について,「自分を責めてしまう」「周りの人と比べて不安になってしまう」などの考え方の癖があって苦しくなってしまう方もいます。この場合,考え方の幅を広げて,よりバランスの取れたとらえ方ができるよう,カウンセラーと一緒に考えたり練習していきます。
以前の職場環境でスキルの不一致がみられることもあります。この場合,改めてスキルを見直し,その方に適した環境を見つけることも大切です。
カウンセリングのメリットは?
上記のような対策は,1人で取り組むと袋小路に入ってしまいそうなテーマですよね。
カウンセリングでは,セラピストと相談しながら自己理解を進めていきます。このため,客観的な視点を持ちながら困りごとを整理しやすくなります。
対策がわからない,仕事をしていく自信がない,という場合も,相談していく中で解決策のヒントが見つかることがあります。ぜひご相談ください。